「でもここにまだいるってことは、バレてないの?」

「うん……姿を消している間は月からも見えないみたいなの」

「そっか……」

「ごめんね。急にあんなことして。嫌だったよね」

あははと苦々しくゆめは笑う。

「……そんなことない。嬉しかったよ。もしかしたらゆめも、僕と同じ気持ちなんじゃないかなと思って……」

「……おなじ?」

「うん、ねぇゆめ。今日は月がきれいだね」

「……は? 月? まだ出てないけど……」

「ふふっ、ちょっと元気になった?」

「えっ、あっうん。そうだね。ありがとう」

「ねぇ、姿消せる?ちょっと長めに」

「長め? やってみるけど……」

ゆめはぐっと体に力をこめる。すーっと姿が消えたところで、はじめはそこにいるであろうゆめをぎゅっと抱きしめた。

「僕が必ず守ってあげるから……」

たぶんこの辺りが耳元であろうと目星をつけてささやくと、透明なゆめが体をビクッとさせる。

「うん……」

はじめの背中にゆめの手が回ったのか、体がぎゅっと近くなった。

「昨日のやつ、もう一回してくれる?」

はじめは体を少し離して、目を瞑る。
昨日よりも長く、唇に温かいものが触れて、胸がこれ以上ないくらい早く鼓動を打つ。

どちらともなくすっと離れて、しばらくするとゆめの姿もすーっと現れた。顔が真っ赤だ。

「ゆめ、ありがとう」

黙ってほほ笑むゆめの目に涙が浮かんでいた。バタバタと玄関から人が入ってくる音がして、慌ててリビングへゆめと向かう。

「おかえり、みんな。どうだった?」

はじめが声をかけると、暑い、お茶が欲しい、お腹すいたと言いながら、ダラダラと汗をかいて疲れ果てた様子のかえでチーム。

ソファーに突っ伏した夏樹、ホームセンターの袋を抱えたまま、麦茶を煽っている朔。

一仕事終えたような雰囲気に笑いが込み上げる。

「はじめくん、動画は10本は撮ったから、あとは加工してあげるだけよ」

汗をハンカチで拭きながら、かえでが笑顔を向ける。

「あの女の子には頼んでおいた。友だち集められるだけ集めてくれるって」

夏樹が気怠そうに顔だけ上げた。

「頼まれたものは買ってきました。これでどうするのですか?」

朔は不思議そうな顔で、ビニール袋を少し上げた。

「さあさあみなさん、簡単ですけど、ざるそばと天ぷらです」

ドーンと大皿にこれでもかという量の天ぷらと、それぞれ器に用意されたざるそばが、ダイニングテーブルや、ローテーブルに並ぶ。

ダイニングテーブルの前にかえでと夏樹、零と詩穂。ローテーブルの前にはじめとゆめ、朔と向田がそれぞれ座る。みんなでいただきますをしてズルズルと蕎麦をすすった。