「はい」

「伸ばす方法は……」

「……、とりあえずは、ありません」

はじめはもう言葉が出てこなかった。
ややあって、口を開く。

「朔さんに、お願いがあります。このメモにあるものを買ってきてもらえますか?」

はじめは、夕方の対決に備えて買い出しを朔に頼んだ。

「明日帰るのを、ゆめは知ってるの?」

「はい、先ほど私からお話させてもらいました。それと大王様は約束通りはじめ様の願いを叶えると仰っておられますので、考えておいてください。姫様の帰還の直前にお聞きします」

朔は立ち上がって、買い物に出かけた。
それぞれが外に出て、家の中が静かになる。リビングから向田の包丁で何かを切る音が小気味よく聞こえるだけだ。

はじめはゆめのことが気になって、声をかけに行った。

「ゆめ、ちょっと入っていい?」

「うん」

そっと襖を開けると、ニッと笑顔のゆめが布団の上で座っていた。笑顔だけど目は真っ赤。泣いていたのかな。

「はじめ、どうした?」

「明日帰るって、朔さんに聞いた。大王様っていうのはゆめのお父さんなのかな? その人が決めたんならもうどうしようもないんだろ?」

「うん、そう……。ごめんね、ほんと勝手で。もうちょっと一緒にいたかったんだけ……ど……」

ゆめは涙を一粒落とした。そこから止まらなくなってどんどん涙が溢れる。

「ちょっ、ゆめ、大丈夫?」

あわあわと慌てるも、背中をさするくらいしかできない。

「ごめ……もう、二度と地球には来られないし、はじめにも会えないし、好きじゃない人と結婚しなきゃいけないし、もう心の中めちゃくちゃ……」

両手で顔を覆って、嗚咽が漏れる。

「僕もそうだよ、明日でお別れなんて……悲しすぎる」

弾かれたようにゆめは顔を上げた。

「ほんと? はじめも悲しい?」

「うん、もちろん」「ゆめ、もしかしてなんだけど昨日僕に目をつぶってって言ったよね? その時ってもしかして……その……」

「……うん。したよ」

やっぱりそうなんだ。初めてだったからわかんなかったけど、なんとなくそうなような気がしていた。