案内板を見て、部屋番号を言うと、看護師さんは「その部屋は空き部屋のはずですが……」と不思議そうな顔をする。

ジリリリリリリ!!!

突然大きな音が鳴り、あたりがざわざわする。「空き部屋の火災報知器が作動しています」誰かの声がする。

看護師さんが、部屋の確認に行く。その後ろをどさくさに紛れてついていく。ドアを開けると同時に、ゆめが外に飛び出してきた。

「えっ!?」

という看護師さんの声を聞き終わる前に手を引っ張って玄関へ走った。騒然とする病院内。

病院の外へ出るとすでに待機していた朔のタクシー。零も夏樹もすでに乗りこんでいる。はじめとゆめが乗るとほぼ同時に朔はタクシーを急発進させて、病院をあとにした。はじめの膝に突っ伏して、ゆめはわんわん泣いていた。はじめは背中をなでて声をかける。

「もう大丈夫だよ、ごめんね。怖い思いさせて。家に帰ろう」

5分もしないうちに家につく。あたりに不審車両はとりあえずない。裏口からそっと入ると、血相をかえて、かえでと詩穂が走ってきた。

「どうだった……!! ゆめちゃん!!」
「大丈夫? けがとかしてない?」

かえでと詩穂が矢継ぎ早に声をかける。向田も出勤してきたようで、心配そうに見つめている。リビングまでみんなで行き、ソファにゆめを座らせて、一息つく。

「みんな、ごめんねー!! もう大丈夫だから!!」

さっきのタクシーとはうってかわって、元気な笑顔を見せる。リビングのローテーブルを囲って、現状を把握する。

「えっと、無事にゆめは戻ってこれたから、とりあえずはよし。次は昨日の動画のことをなんとかしようと思い──」

はじめはハッとした。ゆめの能力を知る人と知らない人がいる中でこの話をすればみんなの頭が混乱するに違いない。どうする? もう解散するか、適当に理由つけて話を進めるか……。「あんなフェイク動画つくったうえに、誘拐までするなんて。なんてどうかしてるわね」

かえでが当たり前のようにそう言う。
たしかに、ゆめの消失の能力を実際に見た人はほんのわずかだ。ほとんどの人は実際には見ていない。あれがフェイクだというのを事実にしてしまう方が早い。