そっとドアを開けると、元気そうなゆめの姿。

「はじめ! ごめんね心配かけて。もう大丈夫だから」

ニカっと笑うゆめの笑顔にドキッとする。自分の気持ちを認めてしまった以上、胸の高鳴りが抑えられない。

「あぁ、うん。元気になってよかったね」
「ぼっちゃま、お昼ご飯お召し上がりになりますか?」
「はい、ありがとうございます」

三人でテーブルを囲む。向田とゆめはもう食事を終えたのか、当たり障りのない会話を続けた。テレビがついていなかったので、リモコンの電源ボタンを押す。

「あっ……」

ゆめが声を上げたが、はじめがボタンを押すのが先だった。ちょうどワイドショーが今日のバズりトピックを紹介しているところで、ゆめの消失動画がトップにあがっていた。

トリックか、マジックか。超能力か。なんてバカげたテロップが出るのを、はじめは冷ややかに見つめるしかなかった。動画が流れ始めたが、途中でテレビを消し、昼ごはんのそうめんをすする。

「あの……はじめ、ごめんね。こんなことになっちゃって……」

「ゆめが謝ることじゃないよ。僕もついていけばよかったのんだけど、ごめんね」
そう謝ると、ゆめはブンブン首を横に振った。首、取れるよ。そんなに振ると。

「違う違う、はじめは何も悪くない。私がちゃんと零さんや朔についていかなかったから悪いの。力もコントロールできなかったし。ほんと、ごめんね」

そう言って申し訳なさそうな顔をする。こんな顔、させたかったわけじゃないのにな。さっきみたいな笑顔がみたい、それだけだったのに。はじめは胸の奥がギュッと苦しくなった。

「ゆめ、今日はとにかく家にいて。庭にも出ちゃだめだよ」

そう話していると、家の電話が鳴った。防犯上、いつも留守電にしてある。留守電のメッセージに変わると、知らない男の声がした。

「今年さんのお宅でしょうか。◯◯テレビの者です。ぜひお嬢様の取材をお願いしたいと思っています。折り返しお電話お待ちしています──」

「えっ、なにこれ……」

慌てて着信を確認すると、ゆうに20件はかかってきている。ゾクっと背筋が凍った。

「もう、電話線抜こうかしら。あんなインチキ動画を作る輩の気が知れません」

大きく息をついて向田が飲んでいた紅茶のカップに目を落とす。向田は、あれがインチキだと思っているようだった。