夏樹はユメと別れ、家へ帰宅している途中でコンビニに寄った。
シングルマザーの母親の帰りが遅い時は、いつもコンビニ飯だ。
途中で好きなアニメのグッズや、気になっているアイドルグループの雑誌に目を引かれたりと、子供らしい行動もとりながら会計をする。
女性の店員さんが、自分に見惚れているのを何となく察して会計を済ませた。急いでコンビニ出ると、窓に気になる貼紙がされていた。

──男性アイドルグループ発掘オーディション!!一般人も受付中!

テレビ等で見た事のある事務所のマークと共に、でかでかと飾られていた。

(アイドルグループ……男性限定かぁ。見た目だけなら、クリアしてるんだけどな)

夏樹はオーディションに目が止まるも、諦めて家路についた。

窓の外が夕日に染まって、段々と夜の匂いがしてくる頃。
何度かオーディションの事がチラつきつつも、夏樹は今バズってる曲のオリジナル振付を完成させていっていた。
苦手なダウンテンポだが、いい感じに出来ている。
自分もやれば出来るじゃかないかと、自画自賛していると突然電話がかかってきた。

「ユメからだ……はい?」

「あ、ナッちゃん?」

「そうだけど、どうしたのー?」

「いや〜、あのね。怒らないで聞いて欲しいんだけどさ、アイドルグループのオーディションにナッちゃんの履歴書を送ったの〜」

「え、マ?」

「マ、よ。マ!」

「いやいや、なんで?」

「うーん、新しい事に挑戦したくって?」

「そういうのは、自分の名前使ってやって下さい?」

「あはは、返す言葉も御座いません!まあ、本題はこっからなの!」

「……嫌な予感しかしない……」

「そのオーディションね、男性って云うのが絶対条件なんだけど、ナッちゃん2次審査まで通っちゃったんだよねぇ……あはは」

「……あー、空耳かなぁ。今、聞いちゃいけない事実が聞こえてきたな〜」

「んーっ、ナッちゃん現実逃避しないで〜!全く空耳じゃないし、リアルガチの話なの〜」

夏樹はこんな時まで軽いユメに、頭痛がする気がしてこめかみを押さえる。
今更ユメを怒る気もないし、なんなら少し気になってた所に丁度良い話ではあるが、夏樹は状況についていけずにため息を吐いた。


「というか、さっき応募したばっかりなんだよね。そしたらなんか、直ぐに1次審査と2次審査すっ飛ばしちゃって〜」

「その履歴書って顔写真必須なやつ?」

「そう!」

「完全に私の事、ナツとして事務所が取り込みに来てるじゃん……」

「んー、そうかもー !」

「そうかもー!じゃないよ、ユメさん……」

「あはは〜、ゴメンねぇ。で、どうする?」

「どうするとは……?」

「だから〜、応募の3時審査の最終面接に行くのかってこと。そこで選ばれれば、次は歌とダンスを事務所で指導されて、審査員の前で披露して、その日に合否が決まるって感じかなぁ?」

「待って、ナツは女だって言って辞退しようよ」

「私も事務所に直接、電話したんだよ。そしたら、めちゃくちゃ怒られた」

「当たり前だよ……」

のほほんと、言って退けるユメに夏樹は苦笑いを浮かべた。
ユメの何とかなる精神は嫌いじゃないが、好きでもない。というか本人よりも、夏樹が被害を被っている場合の方が多いまである。

「でもルックスが男性寄りだから、今回は審査通してくれちゃったんだよォ」

もはや、出来る手を全て尽くしていたらしい。ユメは少し泣きそうな声で、どうしようと電話越しに騒いでいる。

(どうしようって言われてもなぁ……こっちが、どうしようなんだよなぁ)


夏樹はトラブルメーカーの後始末に暫くの間、ぼーっと空を見上げていた。