「黒田先生、医者の手が使い物にならなかったら、患者さんの治療ができません。手を大事にしてください」

一花がそう言いながら包帯などを取り出して手当てをしようとすると、ヨハンが「俺がやるよ」と言いながら彼女の手から包帯を奪っていく。庄司が手当てをされていく中、桜士は言った。

「黒田先生、結婚してたんですね。知りませんでした」

「ああ、これでも結婚して二十年なんだぞ!」

「じゃあ、磁器婚式ですか。銀婚式まであと少しですね」

「まあ、それはめでたいことだけど……」

そう話す桜士と庄司の隣で、一花とヨハンが「銀?」と首を傾げていた。ヨハンはウガンダ出身、一花はアメリカ暮らしが長かったため知らないのだろう。桜士はニコリと笑いながら説明する。

「日本の結婚記念日は、一周年を紙婚式、二周年を藁婚式という風に呼び方があるんです。磁器婚式は結婚して二十周年のことを、結婚して二十五周年を銀婚式と言うんですよ」

「へえ〜。そうなんですね」

一花が目を丸くし、ヨハンはチラリと一花の方を見て少し面白くなさそうな顔をする。