その4
夏美


次の日、私は南部さんと会う約束をしていたのよね

待ち合わせ場所は、埼玉北部の某ターミナル駅内で、彼はバイクで来ていたわ

二人が落ち合ったのは、午後2時を回ったところだった

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「やあ、先日は世話になったね」

「こちらこそ、ハンバーガーごちそう様でした。…ああ、父にも例のランニングホームランのこと話ししました。とても喜んでくれましたよー。滅多に経験できることじゃないから、よかったなーって(笑)」

「ハハハ…、オレも楽しかったよ、あの時は。ああ…、それで、これからこの近くのバッティングセンター行かないか?」

どうやら彼はツーリングがてら、この駅付近のバッティングセンターでよく打ち込みをしているらしい

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”カキーン…!”

”カキーン…!”

いやぁ…、何度見ても見事だなあ…

野球なんてぜんぜんわかんないけど、バット振ってるフォーム、めちゃくちゃきれいなのよね…

それも、右と左、両打席からボールをバンバン打ち返していく、あのリズム感もたまらないわー

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「どうだ…、キミもバット振ってみないか?」

「あの…、今日はいいです。スカート、ミニだし…」

「ハハハ…、こりゃ失礼。でも、寒くないの?そんなに足出して…」

わー、私…、一気に赤面しちゃってる…

彼が俊足と言ってくれたこの脚、見てもらいたくて、寒いの覚悟でスカート短いのにしたんだけどね…(苦笑)


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その後、私たちは幹線道路沿いのファミレスに入ってね…

ここではいわゆる世間話、雑談はほんの二言三言で終わった

もっとも、私たち…、互いに相手が現在”空き家”なのは、真っ先に確認を済ませていたけど(笑)

そして‥

南部さんはちょっと表情も硬くして、互いの組織のことを話し始めた

今日はそう言う話ってことなのね

この時の私…

南部さんが、あえて二人にとっては特殊な位置づけとも言える、”この手”の話を切りだしたのか…

そのなぜだかが、漠然とながら分かった気がしたの…


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南部さんの”お話”、最初んとこ聞いて、やっぱりだったかな…

この人、まずは二人のスタンスをはっきりさせたいという思いだったんだろう…、と思う

うん、嬉しいわ…


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「…あの後、オレも仲間連中とかから南玉連合のこと、色々聞いてさ。悪気はないんだが、やはりね…。キミが、あんな大きな組織のナンバー2だってことで…、どうしても最低限、現状とかは抑えときたかったんだ」

「ええ、ぜんぜん気にしてませんよ。むしろ嬉しいです」

「はは…、さすがに頭の回転はいいな。…それでさ、なかなか複雑らしいね、おたくらの組織も…」

私は思わず、”ふっ…”って吹き出しそうになっちゃった

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「まあ、そうですね(苦笑)。内部ではいろいろと…。かんかんがくがくです、実際」

「うん。何でも組織拡大を主張するグループと、慎重姿勢を唱える側で意見の衝突が激化してるとか…。それで、キミは後者の立場で、しかも組織を引っ張るトップを支えて奮闘してると…。概ねそんな感じないのかい?」

「そんなとこかも知れません。でも、あの…、ちょっと照れます。南部さんにそう言われると…」

「いやぁ…、しかしさあ…、大変だろ?何と言っても高校生だもんな。しかも女の子だ。まあ、いざって時はOB・OGがフォローしてくれてるんだろうが…」

「ええ、私も南玉連合の強みは、肝心なところでOB・OGの先輩方が支えてくれてるところだと思いますよ。凄い機能ですよ、それって」

私は本心をあからさまに口にしてた

でも、いいのかな…

墨東会のリーダーの人にこんなことじゃべって

やはり咄嗟にそう言うことが頭をよぎったわ、私…

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「…うーん、だからこそ、女子高生があれだけの組織をやって行けてるって訳か…。今までも掻い摘んで耳にはしていたが、改めてこうして現役最前線のキミと会って、仲間関連にもいろいろ詳しく聞いて知り得ると、なんだかな…」

南部さんは、そう言って小さくだがため息をついてたわ

どういう意味だろ、これ…

「…いやね…、翻ってこっちの組織内はお恥ずかしい限りだが、そんな整然とはいってないからさ…。いつも混乱してるような気がしててさ(苦笑)。誰がトップなのか、仕切ってるのは一体誰なのかって…。まあ、今も実際ね…」

「南部さん…」