その6
夏美


「じゃあ、実際、今の南玉連合内部がどんな状態かということです。いろんな意見があって、それをぶつけあうのは組織としてはむしろ健全なことですし、多数決を得ればその方針は正式決定事項にはなりますよね…」

「ああ、その通りだ。なにしろ、過半数可決が民主主義の基本だからな」

「ですが、仮にも県外に広く赤塗り理念を唱えるのであれば、やはり、過半数ぎりぎりというものでは、少なくともよその組織を引っ張る方針としては不完全で、先方へ”誤解”を与えかねない。それは場合によっては取りかえしのつかない事態も招きます。そんな危険を冒していいのかと…」

「ああ、それは言えてる。だが、それを皆にどう納得させる?」

先輩の畳みこむようなクロージング…

私の脳で湧き上がるアイディアの泉は、先輩のツッコミによって盛んに沸々してるって

...


「先輩!今は、これだけ内部の意見が二分してるんです。外にまで広める云々は結構だが、その前に、自分達の内部にもう少し目を向け、少なくともですよ、急進と守旧の相互接点をお互いが模索し合って、南玉としての総意として県外に受け取ったもらうことに自信をつけてからにすべきだと思いますよ!」

「よし、分かった。…その論建てでいこう」

「先輩…」

「夏美、大枠でいい。議案提出した側はまず主旨説明だ。そこを一気に覆せないと潰しには行けんぞ。まずは,、そこをどう持っていくんだ?」

「主旨説明は真澄になります。おそらく全部出すでしょう。ここで全部です。ならば、反対質疑では一点攻撃で十分です。ここはあっこにやらせます」

「おお、湯本か…!」

「はい、あっこならその場その場で臨機応変でガンガンです。先輩にも遠慮会釈など一切ありませんから。あっこには、県外代表との会合は確かに意義がある、ただし今は時期早尚などとは口にさせません。攻めどころは、赤塗りの未完成軸一本に絞って訴えるんです」

「赤塗りはまだ未成熟だと言うことをだな…」

「そうです。県外が老舗と見てる私たち南玉は、まだ試行錯誤の段階ですよ、所詮。だからこそ、組織内部で年中ガンガンぶつかり合ってる。紅組の紅丸さんに至っても、そうおっしゃってます。おこがましいですよ、今の私らが他県の先導役なんて!」

「…」

「あっこがそこ一点を突き、真澄の口から荒子の名が出たら、私が荒子を引っ張りだし、自らが本当に県外まで出張る足腰を備えているのか、真摯に問いただします。彼女ならわかってくれますよ。ただ勢いに任せての無節操なアジテーションは、命取りになるということを…」

「夏美…」

土佐原先輩は理解してくれたようだ

私の戦略を

南玉を取り纏める策を…

...


「この短期間に見違えたな、夏美。凄味を増した感じがする…」

土佐原先輩はぽつりとつぶやくように、そう言ってくれたわよ

南部さんに出会えたお陰なんです…

私は咄嗟に心の中で、そう答えていたわ

そして、すでに夕闇に包まれていた駐車場で、別れ際、先輩からは更に一言をいただいた

「今度の幹部会…、頼むぞ、名策士」

私、彼に出会って一皮むけたかも…

ううん、彼に恋して覚醒されたわ

私は走り去る土佐原さんの軽トラックに向かって一礼しながら、ニヤリと薄い笑みを浮かべていた…



ー完ー