その6
南部


その時、店に入ってきた二人連れの男が、こっちに向かって歩いてきた

先頭の男は見覚えがあるわ…

「おお、真ちゃんか!それに南部も…。はは…、相変わらず、女っ気なしで茶すすってるのかよ」

墨東とは友好関係にある某グループに所属する赤松だ…

「…ん?そっちのヤツ、高本ってチョ○じゃねえか‥。二人とも、こんな野郎と何晒してんだよ」

「テメー!」

高本は勢いよく立ちあがった

...


「まあまあ…、落ち着け、高本。…おい赤松、今の言葉は取り消せ。いいな!」

積田は座ったまま、赤松に毅然と言い放った

それはとても強い口調でだったよ

「お断りだね。こいつら在○は黒原さんが死んだ途端、卑屈な本性丸出しでオレ達に牙を剥いてきてんだろうが!」

ここで間髪入れずに積田は立ち上がった

「よし…。赤松、外で話そう。聖一、ちょっと行ってくるわ」

「ああ、頼む…」

積田は高本にも軽く笑って会釈すると、赤松ら二人を後ろから両手で押し出すように店外へ出た

...


「高本…、今の男は墨東のメンバーじゃないが、共同戦線を張ってる仲間だ。赤松って”純血”だよ」

「フン、あんな輩がああいう体を晒してるから、コトが先に進まねえんだよ!黒原さんのやってきたことを理解できないアホどもが…!」

「はは…、ちょっとすれば、積田が赤松をここに連れかえる。そして、お前に頭下げるから。そしたら、この場はそれで収めてくれ」

「はあ…?」

高本はア然としてたわ(苦笑)

まあ、無理もないな

では、積田が戻る前に補足しておくか…

...


「あのな、積田真二郎はアンタたち在○に対しての偏見は一切持ちえていないんだ。あらかじめきれいごと抜きで言っておくが、オレは決して偏見ゼロではないよ。まあ、それは最初に承知しておいてくれ。はは…。でな、積田は実にフェアな人間なんだよ」

「…」

高本はふ~んって感じで黙っていたわ

しばらくして、その積田が赤松一人を先導して席に戻ってきた

そして…

「ああ、高本…、さっきは失言だった。許してくれ…」

赤松はそう言って、高本の席に向かって軽くだが立ったまま頭を下げた

「…わかった。さっきの件は忘れる」

どうやら高本は積田の意を受けてくれたな

...


「なあ…、ちょっと、どうなってんだよ。今の…」

高本は狐につままれたような顔つきで、積田に前かがみになってタネ明かしを迫ってる(笑)

「ああ、ひと言、いや二言だよ(笑)。これから一緒にやっていく”仲間”に差別用語は今後一切許さんと…。で、ここで謝罪しないことは、バラバラになった都県境をまとめる意志なしとみなすとな。…これで、ヤツは納得だった」

「そうか…」

「高本よう…、人間一人じゃ所詮たかが知れてる。だから仲間と協力し合って目的に向かう。その際、例え人種が一緒でも皆が小異は捨てなきゃ、集団で何かをやり遂げることはできないよ。オレ達は皆に理解させる努力ってものを決して怠らない。で、どうだ…、一緒に墨東会でってことで」

オレはここで、高本へ再度ボールを投げた

「…うん、了解した。アンタ達の考えはよくわかったしな。だが、二人が俺らの加盟にOKって言っても、他の連中は大丈夫なのか?砂垣とか…」

オレと積田は目を合わせるとクスクス笑いを漏らした

そんで、オレは高本に向き返ると、ゆっくりとした口調で答えた

「まず、今の墨東は砂さんがOKとなれば、まず承認となる。その砂さんからの了解は今日ヒールズって店で、ここにいる3人が取り付けただろ?」

「…」

「ハハハ…、あの時、俺たち3人は砂さんから事実上、恩を売った。あの場では、暗に一つか二つは事案での包括同意くらい、あの人だって承知したさ。ましてや、あの修羅場を救ったのは呉越同舟のお前なんだしな。さすがに、嫌とは言えないだろー」

この積田の言葉で、一同は大笑いだった

...


1週間後、在○系の仲間7人を伴った高本の墨東会加盟は、幹部会の承認を受けた

さあ、”次の”一手に進むぞ…

...


オレ達3人は中長期を視野に入れた、墨東会の行動シュミレーションを描いた

まず、新しい墨東会の目指すべき道をしっかり定め、その姿勢を積極的に示し続ける作業に着手だ

具体的には集会を頻繁に開催して、無利益な対立はなくし、併存の環境を作っていくことを大きく掲げる

その為にはまず、旧来の在○、純血などという対立軸を”無視”だと声高に訴えるんだ

そう、乗り超えるとかなくすではなく、あくまでそんなもん、無視だと…

これはある意味、アジテーションだ

別に大同団結を呼びかける訳ではなく、各グループは、じゃあ一体何をどうすればいいのかってことも、今一わからない…

そうさ、それが狙いでもあるんだ

そこで、二つの集団・組織を視界に入れる