「彼女は、粗野で不愛想なおれのことが大嫌いだった。彼女が嫁いできたとき、最初に宣言された。『陛下の子種が欲しいだけです。ですから、愛するつもりはありません。そのつもりでいて下さい』、と。二十五年以上経っているいまでもはっきり覚えている」

 彼は、小さく溜め息をついた。

 気がついたら、彼の右手を両手で握っていた。

 彼は、ハッとしたようにわたしを見た。

「ありがとう。情けない男だろう?」

 こんなときに言葉はいらない気がする。だから、小さく(かぶり)をふった。