「ねぇ、あなた、お向かいさんの事なのだけれど……」

大手銀行に勤める、悠作の帰りはいつも遅い。
私は、シチューをよそって、悠作の前に置くと、向かいに腰掛けた。

「何?お向かいさんがどうかした?」

「それが、悠聖に対しての行動が、ちょっと異常なのよ、今日だって……」

悠作は、私の話を黙って聞いていたが、首を捻っている。

「里奈が、気にしすぎなんじゃないか?学校ボランティアのついでに悠聖に校門で話しかけたり、遊びに行かせてもらった際に、不要な洋服を、くれたりしてるだけなんだろ?」

「でも、一度、悠聖のことを、春人って呼んだのよ?他人(ひと)の子を、我が子の名前と呼び間違えるなんて……」

「ま、里奈は、元々神経質な所があるからな。此処は、田舎だし、尚更かなぁ。てゆうか、そのお向かいさんの名前は?よく考えたら、お会いした事もないし、名前も聞いてなかったなと思ってさ」

悠作は、空になった器にスプーンを置くと、ご馳走様でしたと手を合わせた。そして、ポケットからスマホを取り出し、いつものように携帯ゲームを始める。

「杉原美穂子さんっていうの。何故だか知らないけど、毎日、白いワンピース着てるわ」

私の言葉に、悠作のスマホを弄る手が、ピタリと止まった。