「ねぇ、ママ、お向かいさんのお家に遊びに行ってもいい?」

「え?美穂子さんの家?」 

この借り上げの戸建住宅に住み始めてから3ヶ月経った頃だった。悠聖が小学校から帰宅後、そんな事を言い出した。

「悠聖、美穂子さんとお話ししたことなんて、ほとんどないはずでしょ?」

「え?毎日話してるよ」

「悠聖、どういうことなの?」   

私は、悠聖の言葉に耳を疑った。

私自身は、この3ヶ月、スーパーなどへ行く際、庭の手入れをしている美穂子と出会えば、挨拶する程度の間柄だ。個人的な話をすることもなければ、連絡を取り合うこともなかった。

「ママは、知らないと思うけどね、学校の校門のところに、美穂子おばさん、ボランティアで子供達の見守りに来てくれてるんだ。だから毎朝、おしゃべりしてるんだよ」

何故だか、ドクドク脈打つような、嫌な動悸がしてくる。

ーーーーピンポーン

ふいに、インターホンが鳴り響く。  

「誰だろう?」

「あ、悠聖待ちなさいっ」

止める間もなく、悠聖が玄関扉を開ければ、白いワンピースに身を包んだ美穂子が、満面の笑みで立っていた。

「あ、美穂子おばさんっ」

悠聖が、美穂子に抱きつくと、前歯が抜けたばかりの口元を大きく開けて、にこりと笑った。