「えぇ、教えてくださる?」

「えっと、里奈(りな)小林里奈(こばやしりな)です」

「私は、美穂子(みほこ)。お子さんは、男の子かしら?」

「え?どうしてですか?」

「何となくよ、当たりかしら?お名前は?学年は?」

見れば美穂子の視線は、リビングに乱雑に積み上がっている段ボールの上に無造作に置かれていた、一人息子の悠聖(ゆうせい)のスニーカーに向けられていた。

「あ……はい。名前は、悠聖(ゆうせい)で、今年小学二年生です。今、二階で片付けをしてるんですけど……」

「奇遇ね、うちの息子も二年生なのよ。名前は、春夏秋冬の春に、人で、春人(はるひと)。いま病気で入院中なのだけどね。ちなみにご主人は?」

「……主人は、いま車でお昼ご飯を買いに行ってまして……」

「ふふっ……そうじゃなくて。お名前とお勤め先教えてくださる?この辺りは田舎だから、何かあったときに、把握しておくと、お互い助かると思うの」

思わず断ろうとしたが、美穂子の見えない威圧感のようなモノを感じて、私は、渋々、会社名と夫の名前を口に出した。

「あ……◯△銀行で、名前は、小林悠作(こばやしゆうさく)です」 

「ありがとう。何となく、里奈さんとは、仲良くなれそうだわ」

美穂子は、スマホを取り出し、私達家族の個人情報を入力すると、にこりと微笑んだ。

私は、初めて会ったお向かいさんに、根掘り葉掘り聞かれることに、違和感と戸惑いを感じたが、転勤で越してきたとはいえ、数年はお付き合いすることになる。私は、仕方なく聞かれたことだけを返答した。美穂子は、満足したのか、私と携帯番号とラインの交換を済ませると、白いワンピースを揺らして、向かいの家へと帰っていった。