「……里奈ー、俺ちょっと手が離せないんだ、出てくれるか?」

悠作の声に私は深呼吸してから返事をする。

「あ……えぇ、分かったわ」

そして私はアルバムから手を話すと、動悸のする胸を掌でおさえながら玄関扉をゆっくりと開けた。


その扉を開けた瞬間に、私の心はあっという間に恐怖に支配され、骨の髄まで黒く染まり呼吸は浅くなる。

「……こんにちは。今日隣に越してきた、杉原美穂子です」

「そ……そんなっ……」

美穂子は微笑みながら、いつも一つに束ねている長い黒髪の結び目に指をかけて、サラリと解いた。綺麗な黒髪が風に吹かれ美穂子が妖艶に笑う。

「何となく……また仲良くできそうで嬉しいわ」

私に向かって美穂子がいつもの真っ白な歯を見せる。

すぐに私の中に、黒い感情が骨の奥底からミシミシと音を立てて湧き出してくる。ドクドクと鼓動がはやくなり、目の前の美穂子の白いワンピースは目には見えない何かによって、白から黒へと染まっていく。


欲望のままに。絶望の色へと。
理由は、曖昧なままに染め上げられていく。

「はい、これ。つまらないものですが」

美穂子から強引に手渡された、紙袋の中からは、捨てたはずの真っ白な子供用のスウェットが見える。

「ふふっ……里奈さん……末永く宜しくね」


──何故だか、真っ白なそのスウェットが真っ赤に染まるような予感がした。