──美穂子がキッチンの小窓からこちらを覗き見ていた日。


私は仕事から戻ってきた悠作に、美穂子の家族は亡くなっていること、ゴミを漁られたこと、さらにキッチンの小窓から覗き見されたことを涙ながらに訴えたのだ。

悠作は戸惑いながらも会社に異動届を提出し、転勤先が決まると私達はあの家をすぐに引き払い新たな街へと引っ越した。

悠聖の度重なる転校は可哀想だったが、これ以上、美穂子に監視されているような、美穂子の目が常に付き纏う、あの家に住みたくなかった。

そして私は何よりも、愛する家族を守るためにあの異常ともいえる美穂子から遠く離れたかった。

「……アパートも悪くないわね。賃貸だと……ご近所付き合いも適当で良さそうだし」

私は新聞に包まれた食器を取り出しながら、新生活へと思いを馳せる。

引っ越しの際、私はトラウマから一戸建てではなくて、アパートの一室を借り上げてほしいと悠作に頼んだのだ。

前の家よりも平米は狭いが、家族が安住できるならそれでいい。

今日から家族三人、また一から始めよう。新しい場所……そして新しい家で。