「――姉ちゃん、すごい綺麗だよ」

「ありがとう、和樹」


 あれからあっという間に時は過ぎ、一年も経ってしまっていた――あの日、誠さんと出かけた日のことは今も鮮明に覚えている。

 いや、忘れたくても忘れられない。あの後、私は本当に誠さんと行為をしてしまった。
 彼の触れる手が熱くて、気持ちよくて、幸せで……ずっとこのまま誠さんといたくて。

 だけど、目が覚めて身に纏うものがないままの自分を見て怖くなった。私は着替えをして彼が目の覚めないうちに一人で帰った。本当は、最後に誠さんと話をしてさよならをしたかったけど目を合わせて話をすると泣いてしまいそうだったから。
 たった、一言【ありがとうございました】とメモに書いて置いて帰ったくらいだ。



「というか、お相手誰なんだろうね。じいちゃんも教えてくれなかったし」

「和樹、お祖父様でしょう? 仕方ないわよ、あっちには好きな人がいて忘れられないらしいし。あれから一回も会ってくれなかったんだから……いいのよ」


 私だって、誠さんのこと忘れられないのだから同じだ。それに仮面夫婦だとしても家族が幸せになるのならそれでいい。