「……知らない」


そう言ったと同時に、蓮はあたしから視線を逸らす。


…し、知らない…って…。


何で自分の感情が、分からないんだ。


それとも、一種の照れ隠しをしているのかな。


「そんな態度ばっかとってたら、雪ちゃん、他の優しい男に持っていかれちゃうわよ」


蓮のお母さんが菜箸で蓮を指して、鋭い瞳を蓮に向けた。


蓮はそんなお母さんに反抗するかのように、睨みつける。


「黙れ。俺はいつだって優しい」


「えっ、どこが」


あたしは、鍋で箸を突きながら、蓮を見た。


どこが優しいんだ。


まぁ、勉強教えてくれるけど……。


蓮は、う、と声を漏らし、お肉や野菜を鍋から取っていく。


そして、そのお皿をあたしに差し出す。


「お、ありがと」


あたしがそう言うと、蓮は笑顔を見せた。


…本当に蓮の笑顔は素敵すぎて、右に出る者はいないと思う。


「雪ちゃん、こんな男のどこが好きになったの?」


蓮のお母さん…

自分の子供を"こんな男"って言っちゃだめだよ。


あたしは蓮の隣に座る蓮のお母さんに、視線を向けた。


そして、一言。


「…顔、っすね」