「俺はさあ、好きな女がいるんだけどさあ…。その子、全然振り向かないんだよねえ」


空を見上げながら、一樹は呟いた。


「だから、あんた等が羨ましいよ」


一樹の表情そのものは見えないが、彼の声は震えていた。


「…それって、あたし?」

分かっているけど、ちょっとからかってみた。


一樹はあたしの言葉を聞くなり、あたしをものすごい顔で睨む。

そして深ーいため息をついた。

「あのね…俺のタイプはね。超乙女で超可愛くてね、せめて胸もないよりはあった女の子がタイプなんで、あなたはありえないです」


「は?」

あたしの頭が怒りを覚え始める。


「自分の気に入らないことがあると、すぐ人を蹴ったり殴ったりするような暴力的な誰かさんみたいな女は嫌い……」


ゴフ…ッ

!!

あたしは一樹の腹に拳を奥まで入れた。


「…は?"誰かさん"って、誰よ?」

空いている手を一樹の背中に回して、耳元でそう囁いた。


「……誰だっけ、なあ?」

一樹は、声を震えさせながらそう言った。


あたしが思い切り突き飛ばすと、一樹はよろめいた。

よろめきながらも自分の身体を支えながら、なんとか倒れずには済んだ。