「離せよ!」


あたしは足で深波を蹴り上げる。


それでも深波は、声を漏らしながらもあたしを掴む手を離さない。


……あたし…危機…。


蓮、助けて…。


「ねえ、如月のどこがいいの?」


あたしを掴む手がより強くなり、ギシギシという音が微かに聞こえる。


あたしは痛みを堪えた。


「蓮は…、あたしの事を一番に考えてくれる…。だから…」

「アイツが女の事を一番に考えるわけないじゃん。あんた、アイツの過去知らないからそんな事が言えんだよ。」

あたしの震える言葉を遮って、深波はそう言った。


最後の言葉があたしの心に、鋭い矢のように痛く突き刺さる。


「どうせみいちゃんだって、利用されてんだよ。」

「そんな事ない!!!蓮を分かってないのは、お前の方だよ!!」


あたしは深波が油断している隙に、腕を振り払って深波を強く押した。


やっと、解放された…。


あたしはただひたすらに、逃げた。


* *


深波は、自分から逃げた南の背中を見送っていた。