「今日も曲、良かったじゃない」
阿月は、いきなり声をかけられてスピーカーを片付けている手を止めてしまった。
自分が今の現状に至るまでをぼんやりと思い出していたら、誰かが話しかけてきたのだ。
もうライブは終わっており、夜の10時だ。
恐らく自分のファンだろうと分かったのか、阿月はすぐに笑顔を浮かべ振り向いた。
「ありがとうございます」
振り向いた瞬間、息を呑んだ。
話しかけてきたのは阿月と同じぐらいの背の少女で、風になびくサラサラなロングヘアの子だった。
しかも、なぜか伊達メガネをしていて顔が認識しづらい。
また、メイクが濃い顔で威圧感も感じた。
何となく、雰囲気に気圧されて阿月は息を呑んでしまった。
「怖がらなくていいのに」
はっきりとした物言いは、厳しさを連想させた。
よく顔を見ると、かなり整った美しい顔だった。素直に阿月は美人、と思った。
そんな子が自分の曲を聴いてくれて褒めてくれたのが嬉しかった。
「……ところで」
顔色を変えないまま少女は、言った。
「アイドルグループを作らない?」