「ふ、普通っていうか、少なくとも私自身は、っていう意味だけど。」

「俺ってさ・・・」

アキは、らしくない小さめの声でつぶやくように言った。

「俺ってやっぱり普通じゃないのかな。」

額をぽりぽりとかきながら、シャガールの絵の方をぼんやりと眺めている。

少しの沈黙の後、

「ハルだから話すけどさ。俺、かなり小さい時に母親って存在が消えちゃったから、なんていうか、誰かを愛したり、愛されたりっていうものが一体どういうものなのか時々わからなくなるんだよね。本気で相手を愛したいって気持ちは強いのに、どう表現すればいいのかってことが。」

ぼんやりとした表情のまま静かに話し出した。

「とりあえず、相手に嫌われたくないっていう気持ちは人一倍あるんだけど、どうやってその気持ちをつなぎとめるかっていう方法が未だにわからない。結局、自分の方を見てもらいたくて、必死にあがいてるうちに、敢えて相手に嫌われるようなことして相手の気持ちをこっちに向けるようになっていっちゃうのかもしれない。例え嫌われても、相手の目がこっちに向いてる限り、俺の中にある暗い穴は幾分埋められるんだ。」

一生懸命言葉を探りながら、自分の気持ちを私に伝えようとしているアキの姿がそこにあった。

この人は、ものすごく寂しいんだ。

きっと私が想像している以上に。

アキは誰かを愛する前に、誰かにしっかり愛される必要があるのかもしれない。

しっかり愛してくれる誰かと、今まで出会ったの?