・・・。

え?私。

何考えてるの?

さっきから、アキの存在をものすごく意識してるみたいじゃない。

してるみたいじゃなくて、間違いなくしてる。

私には直太って旦那さまがちゃんといて、さっきまでアキと二人でいるなって叱られたばっかじゃない。

ダメダメ。

あー、どうしてこうなっちゃうの?!

頭のもやもやを慌ててかき消して、リビングの椅子に座った。

アキも後に続いてゆっくり座った。

出されたイラストを手に取る。

「うわぁ・・・。」

思わず声がこぼれた。

こないだの下書きに繊細な色合いが複雑にそれでいて居心地よく乗せられている。

私の描いたもの以上の空間がそこには広がっていた。

「すごい、アキ。想像以上だわ。」

「ほんと?」

「うん。私の文章がかすんじゃうかも。」

「それはないよ。」

アキははっきりと言った。

「ハルの描くストーリー、俺の胸にがつんって響いたんだ。このストーリーだけは絶対壊したくない、ストーリーをサポートしたい一心で一気に仕上げたんだ。ハルの文章あってこそのイラストってことだけは揺るがないから。」

アキのまっすぐな目を正面からとらえた。

「ありがとう。」

嬉しかった。

アキがどうしてこんなにも素敵な絵が描けるのかは、今はわかるような気がする。

「とりあえず、あとちょこちょこ細かいところは修正するつもりだけど、これで荻原さんに出しちゃって構わない?」

「ノーブロブレムだよ。よろしくね。」

私はアキにイラストの束を手渡した。

イラストを封筒にしまうと、アキはまたいつものように軽い調子で話し出した。

「仕事の話はここまでということで。次は彼女との旅行の話、聞く?」

「え。もういいわよ。どうせ楽しかったに決まってるし。」

アキは斜めに座り直すと、頬杖をついていたずらっぽい目で見つめた。

「図星!・・・って言いたいところなんだけど、これがそうでもなくてさ。」

なんだかその先を聞いてみたくなってくる。

「そうでもないって?」

「おっ。乗ってきたね。他人の不幸は密の味ってやつか?」

「し、失礼ね!何かあったんなら相談にのってあげようと思っただけよ。」

慌てて、言葉をつないだ。

「今日は上から来るねぇ、ハル様は。」

アキはくくっと笑った。

やだ。

なんだかこの状態、逃げ場のない迷路に迷い込んだみたい。