直太は自分の仕事部屋から封書を持ってくると、そのまま玄関の方へ憮然と歩いていった。

私も慌てて、玄関に走っていく。

「気をつけて。あまり遅くならないでね。」

一応、しおらしいセリフを言っておく。

「ああ。」

直太は靴を履くと、少し小声で言った。

「アキは本当にすぐ帰るのか?」

小声だけど、怖い声だった。

「うん。」

その声に圧倒されて、小さくうなずく。

「これからは、俺のいないときに家に入れるな。」 

そう言い残して直太はまた出かけていった。

玄関の扉が閉まってからも、しばらくそのまま立ちつくした。

額の汗がひんやりと冷たい。

その時、ふっと背後に爽やかな風が吹いた。

振り返ると、すぐ後ろにアキが立っていた。

少し神妙な顔で。

「ごめん。直太兄怒らせちゃったね。」

「あ、ううん、大丈夫よ。アキが上手にごまかしてくれたから変な誤解も解けたみたいだし。ありがとね。」

私は首をすくめて苦笑いした。

「じゃ。」

え?アキ、本当にもう帰っちゃうの?

急に心の奥の方が寒くなる。