「ま、いいや。俺、この後元カノと約束してるからいってくるわ。明日は彼女と旅行だしさ。ほんと、忙しいったらないねぇ。」

また軽いノリで言うと、残っていた紅茶を飲み干して立ち上がった。

アキは、いつも突然現れて突然去っていく。

玄関でかなり履きこんだスニーカーに足をつっこむと、私の方を振り返って、

「紅茶とクッキーごちそうさま。じゃ。」

と、来た時と同じように爽やかに笑ってドアノブに手をかけた。

「あ、ちょっと。」

思わず呼び止める。

「なに?俺急いでるんだけど」と言わんばかりの顔でアキは振り返った。

「え、今度はいつ会える・・・のかなと思って。」

アキはニヤッと笑った。

「早く会いたい?」

「そ、そんな変な意味じゃなくて、イラストの打ち合わせのことよ。結局、私の連絡先教えてなかったし。決めといた方が楽かなーと思っただけ。」

慌てて弁解する。

「あ、そ。じゃ、今度色つけして、表紙が完成したら連絡するよ。」

「うん。わかった。」

アキは、すぐに「じゃ」と手を振って、玄関の向こうに消えていった。

こうやっていつも、アキが風のように去っていった後、どうしようもなく空虚な気持ちになる。

理由はわからないんだけど。

寂しいのとも違うし、苦しいのとも違う。

ただ、妙な不安感が胸に広がって、しばらく何もする気が起きない。

私は小さなため息をつくと、リビングに戻って、また見もしないテレビをつけた。