直太は、職場の先輩だった。

入社当時、社会人としての一から指導してくれた教育係的な存在。

席は私の隣で色々と教えてくれた。

時々それが窮屈なこともあったけど、次第に仕事も絡めて二人で話したり、出かけたりするようになって。

気づいたら付き合うことになってた。

仕事場ではとても厳しい直太だったけど、一旦会社を離れたら私をすごく大事にしてくれた。

ある日、自転車で転んで顔を怪我したって電話で話したら、血相変えてうちまで駆けつけてくれたっけ。

しかも仕事が終わって疲れた夜に、家までの道のり1時間以上もかけて。

そんなたいした怪我ではなかったのに。

でも、嬉しかった。

「結婚しよう」って言われた時も、それが自然な流れだなぁって思ってすぐにうなずいたよな。

そういう相手が本命っていうならそうかもしれない。

だから、本命がどんなのかって言われると、はっきりこう!って言えないんだよね。

元々そんなに恋愛経験も豊富じゃなかったし。

腕を組んで考えてる私を見て、アキは笑った。

「わかんないの?」

「え?ああ、だってあんまり恋愛経験もないし、一番自然な流れだったのがこの結婚だったから。本命ってどんな感じって聞かれてもピンとこないのよね。」

「ふ~ん、そんなもんなんだ。」

アキは頬杖をついて、シャガールの絵を愛しそうに見つめた。

そして、不意に聞いてきた。

「ちなみに俺って、ハルにとってどんな感じだった?」

・・・アキ?

急に聞かれて、胸がドキドキしてくる。

アキは、私の結婚の日から、初めて会うような感覚。

未知の生命体って感じ。

だから、思わず話し出すと、色々聞いてしまいたくなって、もっともっと知りたくなってしまう。

こういう感じって、どういう感じなのかな?