「夜一緒に過ごせるだけでいいって言ったけどさ、俺も本気で好きじゃないと過ごしたいとも思わないし。そういう相手が不特定多数いるんなら話は別だけど、とりあえずそういう彼女はいつも特定の一人だしさ。」

アキはまた紅茶を一口飲んだ。

「俺の考えは、その時その時真剣に誠実に愛する気持ちが本気の証であって、結婚することによって示されるものじゃないんだよね。今の俺と結婚して、幸せにする保証もなければ、相手が幸せになるとも限らないと思ってるし。相手のためになんてただのエゴだと思うんだけど。」

「哲学的だね。何にも考えてないと思ってたけど、そうでもないんだ。」

アキは珍しくムッとしたような顔をした。

「俺のことあんまり知らないのに、分かったようなつもりにならないでくれる?」

少し突き放されたような気がして、動揺する。

「ごめん。」

慌てて、首をすくめて言った。

「幸せかどうかってのは、結局は個人的主観に他ならないんだ。どう思うかってことでしょ?その時、お互いにそれで納得してたらそれでいいんじゃないの?どっちかが納得してないんなら、そこで終わりって俺は思ってる。それが誠意って奴じゃない。」

誠意・・・か。

「俺はイラスト描くの辞めようとは思ってないから。例えどっかで野たれ死のうともね。そんなんで、結婚しようなんて言う方が軽薄でしょ?」

「でも、本気で好きになった人がいたら、その人のためにイラストレーター辞めて、もっと堅実な仕事につこうとは思わないの?」

アキの顔がフッと暗くなったような気がした。

「イラストとったら、俺死んじゃうから。」

しばらく沈黙が続いた。