白い湯気が立ち上る紅茶を静かにアキの前に置いた。

「さんきゅ。」

アキはすぐに紅茶茶碗を手にとって口をつけた。

あ、熱々なのに・・・。

「あちっ!」

ほら、いわんこっちゃない。

なんだか子どもみたい。

思わずくすっと笑った。

「人がやけどしてんのに笑うなんて、ハルも性格悪いなー。」

アキはちょっとむくれた顔をして、そしてすぐに笑った。

私もつられてコロコロ声を出して笑った。

なんだか楽しい。

さっきまで一人でむなしい時間を過してたからかな。

「今日さ、直太兄もいない時に家にあがるのもどうかと思ったんだけど、明日からちょっと用事ができちゃったから。どうしても今日までにはハルに見といてもらいたくって。」

アキは、持ってきた茶封筒からごそっとイラストを出した。

そこには、不思議で、でも、思いの一杯詰まってるイラストの下絵が描かれていた。

「これ。」

「うん、とりあえず、色はまだつけてないんだけど、表紙以外の8ページ分のイラスト描いてみた。どうかな?」
 
正直、こんなに早くイラストの下絵が、しかもこんなに完璧に近いほどにできあがってるなんて思いもしなかった。

「きれい。」

鉛筆だけの下書きなのに、鮮やかな色が浮かんでくるようなイラストだった。

「ほんと?」

アキは私の顔をのぞき込んで、柔らかい笑顔をつくった。

「このまま進めて下さい。」

私は、なんとなく丁寧にアキに言った。

「よかったぁ。」

アキは右手を胸に当てて、安堵の表情を浮かべる。

「表紙は、全部できあがってから慎重に時間かけて描くから。」

そう言いながら、テーブルの上に広げたイラストを大事そうに封筒にしまった。