アキ?!

慌てて洗面所でぼさぼさの髪を一つに束ねて、玄関に向った。

扉を開けると、アキが爽やかな笑顔で立っていた。

「な、一体どうなってるの?」

その笑顔に一瞬ひるむ。

「どうなってるの?って、全然ハルが連絡くれないから、イラストの相談できないじゃんか。だから、家に行くしかないかなって思ってさ。」

それは、そうだけど。

「普通さ、せっかく俺の携帯番号教えてるんだから、一度くらいはかけてくるのが礼儀ってもんでしょ?こっちはハルの携帯教えてもらってないんだからさ。」

「ごめん・・・かけるタイミング逃しちゃってて。ていうか、なんで、家がわかったのよ?」

「ほら、「結婚しました」葉書に住所が書いてあったでしょ。「いつでもお立ち寄り下さい」ってメッセージつきで。だからお立ち寄らせて頂いたわけ。」

目の前がくらっとする。

ほんとマイペースっていうか、自分のペースにどんどん巻き込んでいくのがうまいっていうか。

「ま、まぁ、とりあえず中に入って。」

よりによって、直太が不在の平日の昼間に来るなんて。

近所の人が見たらどう思う?

それこそ、私が婚外恋愛とやらに足つっこんでるみたいじゃない。

意識しすぎか・・・。

「おじゃましまぁす。」

アキは嬉しそうに玄関に入ってきた。

リビングまで、物珍しそうにキョロキョロしながら歩くもんだから、どんなけ時間かかってるんだか。

とりあえず、私はアキに紅茶を入れる。

「へ~、やっぱり新婚さんの家って、何もかもが新しくって気持ちいいよね。」

ダイニングテーブルの椅子にどかっと座ったアキが大きく伸びをした。

「あ。あれ。」

アキが指さす方向には、私の大好きなシャガールの絵が飾られていた。

もちろんコピー版だけどね。

「シャガール。私好きなの。」

「俺も、好き。」

これまた意外な返答。

でも、アキの描くイラストってどことなくシャガールに似てるような気がした。