何が今一番大切なものなのか。


産婦人科の先生のクールな眼差しに、自分の気持ちの後ろめたさを感じた。

後ろめたいってことは、やっちゃいけないってことなんだ。

小さい頃から、そう教えられてここまで来たんだもの。

それが当たり前で、そうしてきたからこそ、今の自分がある。

今の自分が幸せか?って聞かれたら、すぐに「幸せ」とは言えないけど。

でも、間違いなく「不幸」ではない。

それは、まっすぐに生きてきたから。


アキの存在によって、そのまっすぐな自分が壊されていくのが、怖くもあり・・・幸せな時間だった。


時計を見た。

直太が帰ってくるまでに、アキに連絡しなくちゃ。

深呼吸をして、アキに電話をかけた。


「はい。ハル?」

アキは思いがけず2コールで出た。

「アキ?」

「うん。」

しばらく、何も言わず、このまま耳を通してアキを感じていたいと思った。

そんな気持ちがアキに伝わったのかどうかはわからないけど、しばらく、二人の間に沈黙が流れた。

「どうしたの?」

アキは静かに聞いてきた。

「月曜、行けなくなった。」

私はできるだけ普通のトーンで答えた。

「そっか。」

アキは短くため息をついた。

「ごめんね。アキ。見送りに行きたかったのに。」

「ほんとだよ、残念だな。」

アキはわざとらしく明るい声で笑った。