イラストを見に出版社に出向くことは、直太には黙っていよう。

アキが絡むとまた色々と詮索されて、うるさいこと言われそうだし。

もともと、私が童話を書いてることにも賛成じゃなかった。

結婚後も夜な夜な推敲していたら、「いつまで続けるのか?」だって。

「俺だけの給料じゃやってけないか?」なんて嫌味ったらしいことまで言われた。

私が書き続けてるのは、そんなんじゃないのに。

昔からお話を書くのが好きだった。

想像の世界の中で、自分は自由だったし、幸せだった。

私の逃げ場になっていたのかもしれない。

だから、童話を書く仕事だけは、これから先もきっと続けると思う。

続けないと私が私でなくなってしまうような気さえしていた。

直太は良くも悪くも昔気質な考えの男性だから、女の人は仕事に夢中になるより、家をしっかり守ってほしいみたい。

その気持ちも分からなくはないけど、私には当てはまらない。

私も直太に負けず劣らずの頑固者だわ。


「編集部の荻原さんお願いします。」

編集部の受付の前で、少し緊張しながら荻原さんが来るのを待った。

「ハルちゃん、ごめんごめん、お待たせしちゃって。」

しばらくすると、荻原さんが事務所の奥から手を振って出てきた。荻原さんの笑顔を見てホッとする。

「向こうの会議室とってるからそこでゆっくり話しよ。」

荻原さんに肩を抱かれて、会議室に向かった。