「そう。藪内さんっていうイラストレーターさんなんだけどさ。その人が5年前パリで本格的に絵の勉強してきたらしくって。運のいいことに、そのパリの学校も紹介してもらえることになっちゃってさ。」

そうだったんだ。

アキの声は、心なしか弾んでいた。

こんな風に思うのは間違ってるけど、アキが絵を学びたい気持ちに嫉妬する。

「いつから行くの?」

「来週の月曜。」

「げ、月曜って?」

「そうなんだ。ハルと会って、その足でパリに発つ。」

嘘でしょ。

私の胸の奥の何かがぽきんと折れたような気がした。

そんな日に、私は自分の本心をアキに伝えようとしている。

できる?

アキの新しい門出の日に。


ひょっとして、アキは、そんな私の気持ちまで全てお見通しなの?

なんだかどうしていいかわらかなくなって、涙がただあふれてきた。