心臓がドクンと大きく揺れた。

どうして・・・知ってるの。

明らかに動揺している私の表情を読み取った直太は苦笑した。

「何か俺聞いたのまずかった?」

「うううん、全然。」

私はそう言うと、慌ててキッチンへシチューをよそいに行った。

とにかく、直太の前で平気な顔でいられる自信がなかったから。

「今日さ。おせっかいな叔母さんからわざわざ会社に電話があったんだ。お前が尋ねてきたって。」

「そう。」

「ハルが仕事の件にしては随分せっぱ詰まったような顔をしてたから、心配になったそうだ。叔母にしてみりゃ、お前がちゃんと帰宅したかどうか知りたかったんじゃないかな。」

直太はフッと口元だけで笑った。

「でもどうして?俺に何の相談もせず、あんなに高い熱を押して行ったんだ?何か特別な事情でもあったか?」

直太の声は、無関心を装いつつ、ピリピリと痛いほどの緊張感を漂わせていた。

鍋の中のシチューがほくほくと温まるのを、おたまでかき混ぜながら少し間を置いて言った。

「あ、うん。編集者の人からその日連絡があって、アキさんと連絡がとれなくて困ってるって。」

「例の雑誌に掲載するってやつか?」

「うん。一刻も早く連絡がとれないと、今回の雑誌の掲載がボツになるって言われたの。それで私も慌てて、結婚式の名簿を引っ張り出して叔父さんの家までおしかけてしまったわけ。自分でも夢中だったから、後先のことも考えずに行動してたわ。ごめんね、直太。」

我ながら、落ち着いて言えたと思う。

勘のいい直太には、それで通用するか不安だったけど・・・。

直太は新聞に目をやりながら、「そっか。」とつぶやいた。

シチューをよそって、直太の前にそっと置く。

「あ、ビールは?」

「お願い。」

直太は新聞をたたんだ。