「だからさ、ハルは安心して直太兄についていったらいいんだ。間違いないよ。俺も、直太兄だったからハルへの思いを断ち切れるんだ。まぁ、完全に断ち切るまでには相当時間がかかるだろうけど。」

アキは軽く深呼吸をした。

「出会ってから今日までのハルのことは、せーんぶ記憶に留めておくから。絶対忘れない。よぼよぼのじいさんになってもね。」

既に私の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

一言でもしゃべれば、泣いてるってすぐわかってしまうほどに。

「俺、これから真剣に絵で勝負するつもり。ひょっとしたら、俺の絵とどこかで再会するかもよ。」

アキはいつものようにいたずらっぽく笑った。

「じゃ、ハル。元気で。幸せになるんだぞ。前にも言ったけど、俺の思いだけはハルのそばに残していくから。」

一呼吸置いて、

「バイバイ。」

アキは結局私に何も言わせないまま、電話を切った。

ずるい。

ずるいよ、アキ。

全部一人で決めて、一人でまとめて。

私の気持ちなんか知らないくせに。

私が何を言おうとして電話したのか知りもしないくせに。

でも。

アキの言葉一つ一つが、私の心にとても素直に響いていた。