ずるいよ、アキ。

自分ばっかり、気持ちをぶつけて。

私は全て受け身じゃない。

私の気持ちはどうなるの?


何も言えない。

「なぁ。ハル。それはハルが俺に教えてくれたことだよ。」

アキは敢えて私に何も言わせないようにしているかのようだった。

「そ、うだね・・・。」

私は小さな小さな声でつぶやいた。

本当にもう会えないの?

一目でもアキの姿を見ることは許されないの?

瞼の奧が熱い。

嫌だ、泣きそう。

「ハル、大丈夫?ハルだったら大丈夫だよね。支えてくれる人がたくさんいるんだもんな。」

アキが電話の向こうでフッと笑った。

大丈夫なんかじゃないよ。

全然、大丈夫じゃない。

「直太兄ってさ、ちょっと細かかったり、嫉妬深かったりするけど、あれで結構情も深くて頼りになる男なんだぜ。」

アキは急に直太に話題を持っていった。

「俺が母さん亡くしてしばらく叔父さんちで泣いてばかり過ごしてた時に、直太兄だけが毎日俺に電話くれたり、時には家までやってきて話を聞いてくれたんだ。俺にはそれがどれほど心強かったか。本当の兄さんみたいだった。」

直太が?

「俺がフラフラいつまでもしてる時に、本気で俺のことを叱ってくれたのも直太兄だった。直太兄の彼女をとっちまった時ですら、結局しばらくしたら俺の様子を心配して電話よこしたり。」

アキの声は穏やかだった。

「俺、今身内で一番信頼できるのは直太兄なのかもしれない。」

だから、結婚式の時に、直太にだけ穏やかな表情を見せたの?

そういえば、直太もいつもアキをかばってた。

私がアキに心を奪われる前までは・・・。