アキは私の体を支えながら、ゆっくりと歩いた。

もう日はすっかり落ちて、藍色の空に星が瞬いている。

ヒンヤリとした空気を頬で感じていると、アキは静かに語りだした。

「俺の母さんって、俺が丁度6歳の頃死んじゃったんだ。」

通りにいくつかある蛍光灯の光が、寂しげなアキの顔を浮き上がらせている。

「俺を生んですぐ、もともと体の強い人じゃなかったから、体壊してさ。しかも俺が3歳の時に親父と離婚してそれからは一人で俺を育ててくれてた。誰に似たのか俺は小さい頃から絵を描くのが好きだったみたいで、暇さえあれば母さんが画用紙と色鉛筆を俺に与えて『好きなだけ描きなさい』って。俺も、母さんがそう言ってくれたのが嬉しくって、ひたすら描きまくってたのを覚えてる。そして俺の絵を見て本当に喜んでくれる母さんの顔を見たくて。母さんが、死ぬ直前に俺に言ったんだ。『お前は絵を描きなさい。きっと絵がお前を救ってくれる』って。」

だからアキは絵を描くことにあんなにこだわっていたんだね。

アキの腕にもたれながら、何度もうなずいた。

「なのにさ。俺、そういうことも忘れるくらいに、ハルの存在が大きくなっちゃったんだよね。」

アキはゆっくり私に視線を向けた。

心臓がキュッときしむ。

その目。

初めてあったときから、吸い込まれそうで怖かった目。

私はしっかりとその目を見つめた。

「俺、前は絵を描くことをとったら死んじゃうっていったけど、今は死なないよ。」

「え?そうなの?」

「絵を描く以上に大切なものを見つけたから。」

顔が熱い。

私はそっとうつむいた。