「ハル、好き。」

アキは私の首の横に顔を埋めた。

体の芯が熱くなる。

熱のせいなのか、それともそうじゃないのかははっきりしないけど。

アキ・・・。

抱きしめられる腕を、そっと掴んだ。

「そんな優しいことばっか言わないでくれよ。」

アキは顔を私の方に向けた。

「気づいたらハルのことばっかり考えるようになっちまったんだ。」

アキの瞳に吸い込まれそうになる。

だめだ、だめ。

アキから目をそらした。

「お、重いよ、アキ。」

「あ、ごめん。」

アキはゆっくりと私から離れた。

アキの体温が感じられなくなった時、あまりの切なさに泣いてしまいそうだった。

この空気を切り替えなくちゃ。

「それより、荻原さんに連絡とってないんだって?荻原さんも心配してたわよ。」

アキはゆっくりと前髪をかき上げた。

「そっか。それが今日来た主目的だったよね。」

「そうよ、もう一刻の猶予もないらしいよ。あの作品は、アキだけのものじゃない。私とアキの二人のものなんだから。」

「二人の作品・・・か。」

アキはぽつりとつぶやいた。

「最初で最後・・・かもな。」

と一人言のように言った後、急にいつもの笑顔になった。

「俺、最近時間の流れが飛んじゃってて、今何日とか、そういうことすらわかんなくなってたよ。」

「もー、期限はあと1週間だって。早く色校チェックして荻原さんに連絡して。」

アキは、テーブルに積み上げられた書類をわさわさと触りだした。

「あ、あった。これか。」

アキは封すら開けてなかったんだ。

「オッケー。今日中には荻原さんに連絡するよ。」

封を開けながら、アキは私を見ずに言った。

アキの横顔。

よかった、会えて。

「アキは、絵を描くのとったら死んじゃうんでしょ?」

以前、アキが冗談なのか本気なのかわからないような表情で言った言葉。

封に目を落としていたアキが真顔で私を見た。