ふ~。

ゆっくりと深呼吸をする。

今は誰かに電話を先に切られるのが辛い。

この「ツーツー」っていう音がなんとも空しく聞こえて、自分の存在意義が失われてるような錯覚に陥るんだよね。

いけないいけない。

こんな後ろ向きなことばっかり考えてるから過呼吸なんかになっちゃうんだよね。

それにしても、アキ・・・。

連絡がつかないって一体どうしちゃったのかしら。


『絵が描けない』


確か、優花に会う前の電話でそう言ってた。

それが関係しているの?

もうアキとは親密に関わらないでおこうと誓ったものの、せっかく二人でがんばって作った作品がボツになるなんて。

それに、これからアキの仕事だって回してもらえなくなるかもしれない。

そんなことになったら、それこそ、本当にアキは絵が描けなくなってしまう。

なんとかしなくちゃ。

二人で会わないでおこうと誓ったばかりなのに、やっぱりそうはいかないみたい。

気持ちとはうらはらに、そう思った瞬間体が軽くなったような気がした。

自分を縛っているものが、すっとほどかれたような。

でも、今回はきちんと理由があるもんね。

うん。

これも仕事だからしょうがない。

直太になんと言われようと、しょうがないんだ。

必死に自分に言い聞かせながら、私は家路へと急いだ。

空はほんのりオレンジがかっていた。