二十一時を過ぎた頃、レンタルしてきたらしいDVDを手に悠聖が言った。何本かある。主にホラー映画らしい。
「お前いなかったらAV借りたのに」
「死んで」
春斗の頭に空のペットボトルを投げる。妹にAVとか言うか普通。
ケラケラ笑う春斗を無視してリビングのソファーに座った。
ホラーが大好きな乃愛は率先してテレビの前を陣取る。みんなもつられたのか同じくホラーが好きなのか、テーブルを囲んで床に座る。悠聖はあたしの隣に座った。
誰からともなく「電気消そう」と提案して、ふっとリビングが暗くなる。
急激に恐怖が込み上げたあたしは、テレビの明かりを頼りに、リビングと隣接している和室からお父さんのお昼寝用の毛布を持ってきた。怖いと毛布にくるまりたくなるのはどうしてだろう。
「なんか人口密度高くて暑いんだけど。暖房弱くしていい?」
映画が半分くらい進んだ頃に乃愛が言った。
春斗が「うん」と見向きもせずに返事をすると、何度かの『ピッ』が鳴って、暖房の音が静かになった。
みんな映画に釘付けになっているのか、終始無言のまま進んでいく。誰もしゃべらないから余計に怖くて、あたしは開始からずっと毛布を羽織ったまま。
「チィ、毛布入れて」
悠聖があたしに耳打ちをして、毛布をくいっと引っ張る。
「あ、ごめん」となぜか謝りながら毛布を広げると、すうっと冷たい空気が入り込んできた。乃愛は設定温度を相当下げたらしく、暖かかったリビングはすっかり寒くなっていた。
さんきゅ、と小さく言って、悠聖もあたしと一緒に毛布にくるまる。
ふいにあたった悠聖の手はすごく冷たい。