その4
夏美


『はい、その通りです。…では、人間であればですよ、今、目の前に敷かれているレールを歩く前に、まずそのレールがどこに向かっているかを考えます。仮にその行き先が、例えばですが、世界中の人間を殺す道筋だと判断できればですよ、そんなレールに乗ることはせず、自分一人では無理でも多くの人達と知恵を出し合い、そのレールの行先を変更させる努力をする。それが人間です。私はそう思いますが、皆さんはどうですか?』


”その通りー!”


『もっとも、”そこ”の行先など、私達凡人にはそうたやすく見極められませんよ、実際には。それが出来れば、この世から戦争などとっくに根絶しています。要は人間というのは、そこで悩むんです。迷うんです』


”クスクス…”(演説を聞く一部の女子生徒が涙を流し始める)


ふう…、これって何気ないようだけど、スケールの大きい例えと、自分自身の目の前の実際問題をごく自然に交互させ、聞いてる私たちの心にバシッと訴えているわ


凄いよ…

...



『…悩んだ末、導き出した自分の答えが正しいとは限らないが、あらんばかりの信念で、皆それぞれがそこを死に物狂いで導き出す。その第一歩は、我々下々の人間一人一人が、今ある身の回りの常識にとらわれない習慣を身につけることなんです』


『ここで敢えて言いますよ、皆さん!アメリカ帰りの私の目からしたら、日本の若い女性はおとなしすぎる。従順の下僕となっている。ただし、それは無意識にです。生まれ育ってずっとそういう環境下にあったってことで、私だってここで育ったら同じでしたよ』


『今この国では、女なんだからとりあえず短大出て、どっか適当なとこで腰かけ就職して、適当な相手見つけて寿退社…。20代前半なら友人からはもてはやされるから、さあ、急がなくちゃと…。長い一生を共にする人生の伴侶を、そんな目線で選んでいいのかと、皆さんには問いたい』


この辺りになると、私たち中高生の女子はまるで頷き人形のように、頭を盛んに上下させ、ほぼ全員が頷き続けていたわ


...


『まあ、今はいいですよ。現実に日本は平和だし豊かです。でも、私はあえて断言します。こんなわが世の春は、今、世界中でこの国だけです!海の向こうはですよ、今でも戦争や地域紛争が絶えません。そこでは、祖国を失った難民が溢れてる。世界でも稀な島国とはいえ、ニッポンはいつまでそのことに他人ごとでいられるのか…。近い将来、世界中から、その姿勢を突き付けられますよ』


『…要は、この国も世界中から人間が移住してくる時代を想定すれば、今の世の中の常識が絶対では、生きていけません。言ってみれば、今の日本人は淡水しか知らない。いずれは大海から塩水が溢れこんでくる。これは乱暴に言えば、江戸時代末期の黒船到来です。あれが来るんです、再び。ざっくり言えば、今世紀が終わるまでには…』


紅丸さんの演説は一見、突飛なところにずれていってるかのようにも聞こえるが、これは意識してのことよね


何しろこう言った話の展開でも、ここに参集している人たちは皆、台上の大女に視線がクギ付けとなっていたし