さっき部屋を出たときとは正反対に、足取り軽くわたしは自分の部屋へと戻った。

「ただいま戻りまし……」
 勢いよく玄関ドアを開けると、ちょうど洗面所から濡れた髪をタオルで拭きながら出てきた、問題の同居人――もとい、わたしの運命の相手(パートナー)とばちっと目が合った。

 ツンツン立っていた髪はしっとりと濡れ、さっきまでよりも雰囲気が柔らかく見える。
 こうやってよく見ると、ハッキリとした目鼻立ちで、いわゆるイケメンに属するタイプなんだろうなーって思う。
 しかも、背だってすらっと高くて、入試成績だって実はわたしよりずっといいんだ。
 多分、わたしなんかにはもったいないくらいの人……なんだよね。
 残念ながら、今のところ恋愛に発展しそうな感情はまったく湧いてこないけど。

「なにやってんの、そんなとこで。早く入れば」
 そっけない態度でそう言うと、由井くんは首にタオルを掛けてキッチンへと入っていく。
「あ……はい」
 玄関を入ったところで突っ立ったままだったわたしは、あたふたと靴を脱いで中に入った。

「水瀬もなんか飲む? 越してきたばっかだから、水しかないけど」
「だ、大丈夫です」
「そ」
 短くそう言うと、由井くんはグラスに水をなみなみと入れ、ごくっごくっと飲み干した。
 グラスを流しに置くと、ふぅ、とひと息ついてから、もう一度わたしの方を見る。