雪蓉は最近、調子に乗っていた。

饕餮山にいた頃、一度に大量の食事を作っていたので、調理の段取りや手さばきは、饗宮房の料理人たちが目を見張るほど早かったし、毒見役は毎度とても美味しそうに食べるので、どんどん毒見役が増えていっている。

 後宮の妃たちとは無視されていまだに会話したことさえないけれど、饗宮房の料理人たちは徐々に雪蓉に心を許し笑顔を向けてくれるようになった。

 自分の料理の腕がどれくらいのものなのか、比較する対象がなかったので分からなかったが、どうやら後宮でも通用するくらいの腕前はあることを知った。

いや、通用するどころではない、料理人の中でも優秀な方なのだと自覚していった。

私ってなかなかいい腕持っているのね。これなら仙になることだってできるかもしれない。なんて、自信を持ち始めていた。

世間はこれを、調子に乗っていると呼ぶ。本人は全力で否定するだろうが。

そんな雪蓉の伸びきった鼻を、全力で真っ二つに折る救世主が現れた。

今日も鼻歌交じりで豪快に鍋を振っている雪蓉の元に忍びよる怪しい影。

料理に夢中で雪蓉は近付いてくる人物に気が付かない。

「また大鍋料理ですか? 新鮮味も変化もないガサツな料理ばかりですね。まるであなたみたい」

 いきなり隣から話し掛けられ、しかも内容が直接的な悪口ときた。

ぎょっとして左を向くと、料理長の鸞朱が横から鍋を覗き込んでいた。

「あ、あの、ガサツはさすがに酷いんじゃ……」

「この程度の料理しか作れないのに、鼻歌をうたいながら陛下の料理を作るなんて緊張感がない。

自惚れている証拠です。陛下はこれまで味を感じることができなかった。

ゆえに、唯一味を感じることのできるあなたの料理が美味しいと思うのは当たり前です。

しかしながら、それはあなたの料理が一流であるということではない」

 自分のことを悪く言われるのは流せても、自分の作った料理を否定されることは我慢できなかった。

カチンときてしまい、つい声を荒げてしまう。

「お言葉ですけど、料理長様! 料理長様だって、私の作った料理を食べて感心していたではありませんか!」

「確かに味は美味しい。それは認めましょう。ですが、それと料理人として一流かどうかは別の話です。下町で店でも開けば繫盛するんじゃないですか?

でも、宮廷料理人としては下働きで終わるでしょう。あなた程度の腕前、宮廷にはいくらでもいます」

「なっ……そんなのやってみなきゃ分からないじゃないですか!」