皇帝の地位を捨てた劉赫が舜殷国に戻ると、大変な騒ぎとなった。

泣いて喜ぶ者、怒る者、めいめいが騒ぎ立てた。

それもそのはず、神龍を宿す皇帝が不在だった間は、まるでお通夜のように静まり返り、人々は絶望に打ちひしがれていたのである。

 一人の女のために国を捨てるなど前代未聞。

本来であれば戻ってきたとて、相手にもされない立場になっていてもおかしくないのだが、神龍を体に宿す者はこの世でただ一人。

皇帝は劉赫でしかあり得ないのだ。

 国を動かす宰相の代わりや国を守る軍神の代わりはいても、皇帝という存在は神のようなものなのだ。

唯一無二、ただそこにいてくれるだけで国が豊かになる、精神的柱。

 とはいえ、一時でも皇帝の座を降りたことによる弊害は、劉赫が想像していたよりも過酷だった。

 ようやく想いが通じて、国や命を捨ててでも手に入れたかった最愛の人を手中に収めたにも関わらず、莫大に溜まった政務の量が多すぎて、ろくに雪蓉と会えなかった。

おそらくこれは、臣下たちからの嫌がらせである。相当根に持たれている。

 会えるのは雪蓉が作ってくれたご飯を食べる時のみ。

会話できるのもその時だけだ。

食べ終わったら明豪が来て、強制的に政務室に連れていかれる。

劉赫は思った。明豪も本気で怒っているなと。

自分のしでかしたことがどれほど大きな罪だったのか分かっているからこそ、たいして反抗はせず甘んじて罰を受け入れていたのである。

 精魂尽き果てるまで仕事をして、ようやく雪蓉に会えると思って夜遅くに後宮に赴くと、雪蓉は爆睡していた。

声を掛けてもまったく起きなかった。

 そんなこんなで両想いとなり、晴れて正式な夫婦となって、雪蓉は皇后になったにも関わらず、ふたりの仲は一切進展していなかった。