ぼそりと呟いた言葉に、ジョエルはどう反応して良いか分からないというように、困ったように笑っていた。「閣下なら、本当にそうしてしまいそうですね」と言いながら。
「まるで、以前カミーユ嬢から聞いた、『傭兵のルーさん』のようだ」
続いた言葉の、その内容に驚き、アルベールはまじまじとジョエルの方を見た。なぜ彼のことを知っているのだろうか。会ったこともないだろうに。
ジョエルはアルベールの視線に気付き、数度瞬きをする。おそらくはその視線の意図にまでは気付かなかったのだろう。世間話をするように、口を開いた。
「閣下はご存知かもしれません。今から三年ほど前、隣国との関係が悪化していたことから、エルヴィユ子爵家で試験的に傭兵たちとの合同訓練を行っていた時期があったことを。国内の騎士たちだけでは心許ないと前国王陛下が仰ったので。その時に、傭兵の一人として訓練に参加していた方が、ルーさんだったそうです」
「閣下程ではないと思いますが、とても強い傭兵だったようですよ」と、彼は続けた。
「その時、カミーユ嬢はまだ男性を恐れるようなことはなくて。騎士たちと同じように、傭兵の方たちにも差し入れを持って行ったりしていたようです。そこで、仲良くなったのが、ルーという名前の傭兵で。カミーユ嬢も、楽しそうに彼のことを話していました」
そこで、ジョエルは一度口を閉ざす。躊躇うような素振りは、そこから続く話の内容のためだろう。
アルベールもまた、それを知っていたから、何も言わなかった。
ジョエルは少し考えるような間を空けた後、「彼がいなければ、カミーユ嬢は私と婚約することすら出来なかったでしょう」と、呟いた。どこか、遠くを見るような目で。
「傭兵たちとの訓練の期間中に起こった出来事で、彼女は男性を恐れるようになってしまった。その出来事から彼女を救ったのが、ルーさんだったそうです。彼女の身に起こったかもしれない最悪の事態から、救ってくれたのだと。だからカミーユ嬢は、屋敷から出る時は、彼の傍から離れなくなったと聞きました。……当時は、私とも一対一では顔も合わせられなかった」
過去を思うように、手元のカップの中を覗いたまま、固い顔でジョエルは続ける。
と、ふっとその表情を和らげた。「彼も、閣下のようにとても献身的な方だったと聞いたのです」と、彼は笑った。
「まるで、以前カミーユ嬢から聞いた、『傭兵のルーさん』のようだ」
続いた言葉の、その内容に驚き、アルベールはまじまじとジョエルの方を見た。なぜ彼のことを知っているのだろうか。会ったこともないだろうに。
ジョエルはアルベールの視線に気付き、数度瞬きをする。おそらくはその視線の意図にまでは気付かなかったのだろう。世間話をするように、口を開いた。
「閣下はご存知かもしれません。今から三年ほど前、隣国との関係が悪化していたことから、エルヴィユ子爵家で試験的に傭兵たちとの合同訓練を行っていた時期があったことを。国内の騎士たちだけでは心許ないと前国王陛下が仰ったので。その時に、傭兵の一人として訓練に参加していた方が、ルーさんだったそうです」
「閣下程ではないと思いますが、とても強い傭兵だったようですよ」と、彼は続けた。
「その時、カミーユ嬢はまだ男性を恐れるようなことはなくて。騎士たちと同じように、傭兵の方たちにも差し入れを持って行ったりしていたようです。そこで、仲良くなったのが、ルーという名前の傭兵で。カミーユ嬢も、楽しそうに彼のことを話していました」
そこで、ジョエルは一度口を閉ざす。躊躇うような素振りは、そこから続く話の内容のためだろう。
アルベールもまた、それを知っていたから、何も言わなかった。
ジョエルは少し考えるような間を空けた後、「彼がいなければ、カミーユ嬢は私と婚約することすら出来なかったでしょう」と、呟いた。どこか、遠くを見るような目で。
「傭兵たちとの訓練の期間中に起こった出来事で、彼女は男性を恐れるようになってしまった。その出来事から彼女を救ったのが、ルーさんだったそうです。彼女の身に起こったかもしれない最悪の事態から、救ってくれたのだと。だからカミーユ嬢は、屋敷から出る時は、彼の傍から離れなくなったと聞きました。……当時は、私とも一対一では顔も合わせられなかった」
過去を思うように、手元のカップの中を覗いたまま、固い顔でジョエルは続ける。
と、ふっとその表情を和らげた。「彼も、閣下のようにとても献身的な方だったと聞いたのです」と、彼は笑った。