あまりに驚いていたものだから、「カミーユ嬢?」と不思議そうに首を傾げられて、はっとする。挨拶を受けて何も返さないのは、さすがに失礼だ。
 慌ててドレスを摘まんで礼の形を取り、カミーユもまた「ごきげんよう、ブラン卿」と応えた。



「閣下の方こそ、今日も素敵ですわ。お召し物もとてもよくお似合いですわね」



 自分の衣装も、質素倹約を信条とするカルリエ家には珍しいほどに華美なものであったが、アルベールの衣装はそれに輪をかけて、今から王宮のティーパーティにでも行くのかという程には質も良く、精緻なデザインが施してあった。
 昨日の衣装と言い、公爵家の物としてはこのくらいの物が普段着なのだろうかと僅かに眩暈を覚えたカミーユに、しかしアルベールは嬉しそうにその麗しい顔を緩めると、「本当か?」と呟いた。



「貴女に会うから、似合う物を選んで欲しいと侍女たちに頼んだのだ。貴女がそう言ってくれるのなら、着飾った甲斐があった」



 「後で侍女たちに礼を言わねば」と続けるアルベールの表情は、男性への表現として正解かどうか分からないが、まるで花のように綻んでいて。そこまで大袈裟に受け取られるとは思わなかったカミーユは、少々怯みながら、ただ「そうでしたか」と当たり障りのない言葉を返した。



「昨日もそうだったが、普段は服装になど気を使わないものだから、侍女たちが張り切っていた。……ああ、そうだ。忘れるところだった」



 言うと同時に、彼は背後に控えていた侍従に何やら合図をする。侍従は一度頭を下げて後ろに退がり、次にアルベールの元に戻ってきた時には、淡い色合いの花束を抱えていた。



「花が好きだと人伝てに聞いた。君が好む花かは分からないが……。よければ飾って欲しい」



 侍従から受け取った花束を差し出し、アルベールはそう言って微笑む。それほど大きくはないものの、ところどころにレースやリボンが編み込まれており、とても手が掛かっていることが一目で見受けられる、愛らしい花束である。

 両手で受け取ったそれに顔を近づければ、甘い香りに知らず頬がほころんだ。




「わざわざありがとうございます。ブラン卿。部屋に飾らせて頂きますわね」



 本当に自分の好みの花を知らなかったのだろうかと思う程、好きな花たちが溢れる花束。
 「とても綺麗ですわ」、と心から思ってそう言えば、アルベールの方が一層嬉しそうに笑みを深め、「気に入ってくれたならば、良かった」と呟く。そのあまりの屈託なさからは、英雄と称される騎士としての彼の姿は想像も出来なかった。