「この命をかけて誓おう。もう二度と、君を危険に曝したりしないと。護り抜いてみせるから。……安心して、休むと良い」



 優しく背を撫でていた腕に、力がこもるのを感じる。温かな体温。いつも自分を守ってくれる、愛しい人の存在。恐怖ゆえに落ち着かなかった心臓が、少しずつ平静を取り戻す。深く息を吸い、そして吐き出した。

 カミーユは心の底から安堵しながら、アルベールの胸にその頬を擦り寄せる。アルベールが驚いたようにびくりと身を強張らせるのを感じながら、カミーユは少しだけ笑って、目を閉じた。

 彼の傍にいれば、大丈夫。これから、また同じように怖い目にあったとしても。きっと彼は、こうして傍にいてくれるから。

 もう大丈夫だと、今度は心から、思った。



「……ん。ここは……」



 ふと、真っ暗な中で目を覚まし、カミーユはぱしぱしとその目を瞬かせる。僅かな月明りのみが頼りの暗闇に、慣れてきた目が捕らえたのは、紛れもなく、自分が毎日寝起きしている私室だった。

 半身を起こし、ぼんやりと思う。アルベールの手配した馬車に乗り、彼と共に帰路について。彼の胸を借りて大泣きして。それからの記憶がないのだけれど。



 ……私、眠ってしまったみたいね。



 そしておそらく、彼が屋敷まで運んでくれたのだろう。最後まで迷惑をかけてしまった。明日顔を合わせた時に、お礼と、お詫びを伝えないと。

 思いながら視線を巡らせて、ベッドサイドに置いてある低めの家具の方へと顔を向ける。そこには相変わらず、この質素な部屋には似つかわしくない、豪華な木箱が置いてあった。

 もぞもぞとベッドの上で移動して、その木箱へと手を伸ばす。おそるおそるその箱を手に取り、座り込んだ膝の上に置いて。

 ぱかりと、それを開けた。



「……まるで、光っているみたい」



 真夜中の、カーテンの隙間から覗く月の光に照らされて、白銀の長い髪の束は、星のように輝いている。優しくて穏やかなアルベールの表情が思い浮かんで、気付けばそれを手に取っていた。するりとそれに頬を寄せ、目を閉じれば、彼がすぐそこにいるような気がして。

 くすぐったいような心地になりながら、カミーユは再び、丁寧にその髪を木箱に戻した後、家具の上に置き、ベッドに横になった。その木箱が目に入る度に、アルベールに見守られているような気持ちになると言えば、彼は笑うだろうか。

 そんなことを思いながら、少しだけ笑って。またゆっくりと、目を閉じた。

 あれだけ怖かった今日の記憶が、少しずつ遠ざかっているような、そんな気がした。