確かに、アルベール様が言葉を交わしていたのに……。何で急にいなくなってしまったのかしら。



 相変わらず扉の方から聞こえる音から気を紛らわせるように考えていたカミーユは、急に先ほどよりも激しく、ダンッと響いた音に息を止めた。

 今の音は、まるで。



「扉を、壊そうと、してる……?」



「ひっ……!?」


 彼らは腕だけではなく、身体全体を使って、扉を壊そうとしている。その証拠に、彼らがぶつかる度に、部屋の扉がミシミシと音を立てていた。



 前々から彼女を狙っていた……? けれど、それだけの理由で王宮の扉を壊そうとするかしら……。



 いくら侯爵家や伯爵家の子息と言えど、そのようなことを王宮で行えばそれなりの罪に問われるだろう。それも、女性を乱暴する目的で、ともなれば。



 普通なら考えられないわ。他の目的があるのかしら? それとも、罪に問われない自信があるか、……罪に問われても良いと思っているか。



 考えながら、しかしミシミシとさらに音を立て始めた扉に意識を奪われる。外開きの扉は衝撃を受ける度に内側に膨れ、それほど時間を立てずに壊れてしまいそうだった。

 「ひっ」と、声が零れそうになり、しかしそれを押し留める。蒼褪めた表情で扉を凝視し、震える令嬢の恐怖をこれ以上煽るわけにはいかない。

 切迫した緊張感が部屋に満ちる。恐ろしくて、あまりにも早く胸を打つ鼓動に吐き気を催しながらも、必死に表情を繕いながら周囲へと視線を向けた。

 部屋の中にあるのは、いくつかのテーブルとソファ、そして椅子。壁に囲まれた部屋の内、背後にだけ窓があるけれど、ここは二階である。見る限り、周囲に背の高い木のようなものもないようなので、とても無事では降りられない。

 それでも、男たちに襲われるくらいならば。



 ……だめ。私一人ならば良いけれど、彼女を置いてはいけないわ。



「あ、嘘……」



 令嬢が呆然とそう口にする。
 とうとう、ギシギシと音を立て始めた扉にカミーユは令嬢と二人、ソファから立ち上がった。どこかに隠れなければ。きょろきょろと、辺りを見回しながらそう思うけれど、身を隠せるような物がないのもまた事実で。

 せめて少しでも離れようと、「こっちへ」と、令嬢の手を引いて背後の壁の方へと向かう。
 やはりと言うべきか、窓から外を確認しても、掴まれそうな木々はなく。室内の光が漏れる中で確認できる窓の外、その真下には、緑色の芝生が広がっているだけだった。