それは、アルベールが部屋を出てから、少し経ってからのことだった。激しく音を立てる扉に、カミーユは驚いて身を固くする。
 一体、何故急に扉が叩かれるのだろう。



 部屋の外には、使用人の方たちがいらっしゃったはずなのに、何故……。



 思うも、次の瞬間、聞こえて来た声にそのような疑問を忘れてしまった。



「だ、誰かいませんか……! いたら、助けて……!」



 あまりにも必死な様子の女性の声に、カミーユは慌てて立ち上がり、扉へと駆け寄った。その間にも、扉を叩く音は止まない。

 「どうされました……!?」と、カミーユは扉越しに問いかける。何が起きているか分からないというのに、無闇にそれを招き入れるわけにはいかなかったから。

 カミーユの声が聞こえたらしい、扉の向こうの人物は、ほっとした様子で、「……! ああ、良かった……!」と声を上げた。



「お、男の人たちに追われているんです……! 助けてください……!」



 一瞬、身体が凍り付いてしまったかのように動かなくなった。男の人たちに追われているという、その言葉に。その言葉が表した状況に、身が竦んだから。

 しかし扉の向こうから再度、「は、早く開けてください……!」と、悲痛の声が聞こえてきて、慌てて扉を開く。

 扉の向こうから現れたのは、夜会のために整えていたであろう髪を振り乱し、今にも泣きそうなほどに顔を歪めた、一人の令嬢。彼女は慌てた様子で部屋の中に入ると、「扉を閉めて!」と声を張り上げた。

 カミーユもまた、慌てて扉を閉じる。閉まる扉の合間に、二人の男がふらふらと覚束ない足取りで歩み寄ってくるのが見えた。おそらく酒にでも酔っているのだろう。夜会が始まってしばらく経っているため仕方がないかもしれないが、その目だけは真っ直ぐにこちらを見ていて、それがこの上なく恐ろしかった。

 扉の鍵を閉めて、震えている令嬢を支えながらソファへと進む。鍵がかかっていることに気付けば、さすがに彼らも諦めるだろう。そう思いながら。



「た、助けて頂き、ありがとうございました……。本当に助かりました……」



 ソファに腰を降ろし、自らの身体を抱きながら言う令嬢に、カミーユは、「あの方たちは……?」と問い掛ける。何しろ状況が全く分からない状態だったから。

 と、ガチャガチャ、とドアノブを回す音に続き、ドンドンッ! と力任せに扉を叩く音で、二人は揃ってはっと扉の方を見る。男たちが部屋の前まで来たらしかった。