「萌香ちゃんだね。
こんな休みの日の夜に一人で飲み?」

フフッ、食いついた。
私は魚が餌に食いついたような感覚に
心の中ではほくそ笑みながらも、
表情はもの悲しげに哀愁を漂わせた。

「実は今日、彼氏だった人に振られたんです...
彼には別に女がいて浮気されてたんです..」

大抵の男はここで私を口説きに入るのだ。
例え彼女持ちだとしても例外ではない。

「そうなんだ...それは辛いよね
僕も片思いの相手がいるから、その気持ちよくわかるよ。」

禅は苦々しく笑った。

彼女じゃなくて片思いか...

っていうか、あれっ..?

言うことはそれだけ?

「フシミンみたいな優しい人を好きになれたら良かったのに...」

私は崩れかけたプライドをなんとか立て直して甘えた声で再び畳みかけた。

「僕も他の子のことを
好きになることができたら
どんなに楽かと思うんだけど..。
でも、どんなに足掻いても
無理だったんだよね...」


「そんなにその人のこと好きなんですか?」

私は引きつりそうになる顔を堪えながら問いかけた。

「うん。ほかの女の子が霞んでしまうくらいにね..」

禅のストレートな言葉に私は思わずドキッと胸が高鳴ったが、その霞んでしまうという女に自分も入っているのだと気づいてムッと顔を引き攣らせた。