竜海さんは私の返事にホッとしたように
息を吐くと
「桜良、俺は」
いきなり意を決したように口を開いた。
その時、ダッシュボードの上に置いていた
竜海さんのスマートフォンがブーブーと振動した。
竜海さんはなんだ?と言うように
スマートフォンを手に取ると
そのディスプレイの名前を見て
眉根を寄せた。
「はいっ、休みの日になんだ?」
一瞬、見えた松谷さんの名前に
私はズキッと胸に痛みが走った。
やはりスマートフォンから聞こえる女性の声に秘書の松谷さんだと悟った。
竜海さんのプライベートの携帯も
松谷さんは知っているのかと
私は動揺した。
やはり、二人はそういう関係なのかな..
竜海さんは電話に耳を傾けながら
相槌を打つと
「分かった。今は取り込み中だから
取り敢えず、先方には朝一に伺うと伝えてくれ」
そう言って電話を切った。
「すまない、桜良。
ちょっと営業部の不手際があったようで
その連絡だったんだ」
竜海さんのまるで言い訳のような物言いに
「専務ともなれば大変ですもんね。
私に気にせず、松谷さんとお話し続ければ良かったのに。」
口が勝手に嫌味のように動いてしまう。
もう、夫婦でもないのにこれでは
嫉妬していると言っているようなものだ。
私は居たたまれなくなって
「ごめんなさいっ、そろそろ父と母が心配するので」
急いでシートベルトに手をかけた。