「いくら夫婦だからって相手に言えない
秘密の一つや二つあるもんなんだよ。
お前にだってあるだろ?」

黒木の問いに俺は顎に手を当て考え込んだ。

そして考えた末、「ない!」と断言した。

「は?あるだろ?
ほら、昔の彼女の人数を少なめに偽ってるとか、黙ってキャバクラや風俗に行ったとか。男ならあるはずだ」

俺はジトーっと軽蔑の眼差しを向けながら「ねえよ!」と再び断言した。

「はー、つまんない男だねお前は。
そう言えば、お前高校まではガリ勉メガネだったもんな♫
大学からコンタクトにしてお洒落するようになってモテるようになったけど根は真面目な堅ぶつだからな。」

黒木はハッハッハと俺を 
いじって楽しそうに笑っている。

「お前だって高校までは丸坊主で真っ黒焼けた田舎の野球少年だったろうがっ」
 
黒木も野球部を引退して髪を伸ばした途端、
女の子からモテ出したのだ。
俺と違うところは今の奥さんに出会うまでは
色々な女の子を取っ替え引っ替えしていたところだろう。付き合った人数は片手じゃ足りないくらいだということを今の奥さんには口が裂けても言えない。

「ハハッ、そうだったねぇ。
お互い垢抜けたもんだよねぇ」

黒木は感慨深げに昔の思い出に浸っている。

「もう俺らの話なんてどうでもいいよ。
問題は桜良だ。なあ、黒木?
俺はどうしたらいいんだろうか?」

いつも黒木の前では強気な俺の
見たことのない弱気な態度に
黒木はプハッと吹き出した。

「やり直したいなら、土下座してでも謝るしかないな」

「桜良は許してくれるだろうか?
俺、酷いこと言ってしまったし
もしかしたら、すでに気持ちが離れて
しまってるような気がしてこわいんだ」  

「ハハハッ。恋愛にドライだったお前を
そこまで弱気にさせるなんて桜良さんはすごいな。」

黒木の言う通り、大学生の頃は女の子に告白されて二人ほど付き合ったが、放ったらかしにしすぎて本当に自分のことが好きなのか分からないと振られたのだ。その時はしょうがないと直ぐに諦めることができたのに、桜良のことは諦めることがどうしてもできないのだ。

「笑ってないで真面目に答えろよ。
黒木から見て桜良はまだ俺に気持ちがあると思うか?」

俺の言葉に黒木は考えるように
腕を組んだ。

祈るように黒木が口を開くのを待つ。